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● Report No108/ 08月29

畏れ多い想像

 人体の水分量は足元から乳首あたりまでに当たる程、所謂、水性ゲル物質の生命体だ。水吸収剤のポリアクリル酸ソーダは既に広く利用されているが、最近東大で1000倍の水を吸収し、かつ弾力性ゲルを形成する物質が開発された。シクロデキトスリン(CD)の環状構造がポリエチレングリコールの鎖同志を鍵固定した形でロタキサン(既報)の様 。
 一方、米国ノースウエスタンタン大学では生態適合性のあるポリマーにアミノ酸を組み込んだ接着剤がゲル形成用接着剤として、加えてDDS(薬剤徐放システム)の機能担体であることが研究発表された。
  一方バイオ技術で細胞分裂と増殖、器官形成の研究が盛んに行われ、かなりのところ迄進歩して行われていると聞いた。
  さすれば、上述の超高水性ゲルにてキャリヤーセグメントを形成し、セグメント同士の境界膜に、細胞増殖に資する薬剤を保持せしめ核細胞を播種したらどうなるかなー。万万が一、その時、魂、精神はどうなって行くのか畏れ多い想像です。

チップを形成する 7人の侍

 IT時代、ハードの中核たるシリコン素子の製造には高度な化学技術が駆使されている。チップ自体はハードなのに、封止材なるチップの外皮以外は、ソフトのように目には見えない。主役たる電子回路は緞帳の裏、いや楽屋で演じている劇のようなものか。
 1.土台(基盤)になるシリコンウェーハー  (固体)
 2.エッチングガス             (気体)
 3.パターン形成の為のフォトレジスト    (液体)
 4.配線づけの為のスパッター・ターゲット材 (固体)
 5.現象の為の薬剤             (液体)
 6.配線階層を形成するLow-K絶縁膜      (液体)
 7.表面凹凸を平坦化する為のCMP剤      (液体)
 舞台裏で演技するチップを生み出した侍たち、さしずめ”俺たちは根だ、花みたいに人様からは見えないからなあ”おっと8人目を忘れていました。洗浄の為の超純水。侍たちの行動のあり様をアニメ化すれば、小学生から理系に進もうと思う子も出ましょう。

 

● Report No107/ 08月22

ポリシラン

 よく知られているシリコーンはSi-O-Siと酸素を介して結合しているが、ポリシランはSi-Siと直接結合高分子で性質も特異。
 それは、紫外線特性や光反応を示したり、ドーピングによって導電性も発揮するとなるとスーパーハイテク材料の資格充分。既にUV露光によりフォトブリーチング現象を利用した光導波路形成用感光性ポリシランが出現する程開発レースは熾烈を極めている。
 ・光学活性スイッチメモリー機能材
 ・ゾルゲル系ポリシランによるマイクロレンズアレー
 ・サーモトピック結晶材料
 ・次世代リソグラフィー用レジスト剤
 ・ラダー(梯子)型ポリシラン合成   等々
 こうなると、これらの延長線上に、事業面ではシリコンバレーならぬポリシランバレーが出現するか、株式アナリストも長期尺度ではもう折り込んでいるかも。

プラズマ

 気体分子が、励起し電離してイオンと電子となり、その集団をプラズマと言う。従って物質変体の固→液→気体に次ぐ第4の状態で電離ガスとも言える。極地のオーロラはこれに当たる。
 原子が電子を放出して裸になるとその活性度が上がり、ハイテク分野ではこの活性度をいろいろな分野で利用している。たとえば、メタンと無機系のガスは、プラズマエネルギーにより、有機無機の複合薄膜が形成され、反射防止膜、光学フィルター膜、絶縁層が得られる。(高周波イオンプレーディング)ポリオレフィンフィルムにアルミナ・シロキサンのプラズマ処理すると、透明で、気体透過性の低いフィルムが得られ、ダイオキシン問題のある塩化ビニルの代替で注目されている。又、PETに酸化インジウムの透明導電膜もディスプレイ分野では欠かせない。
 鎧を着けて風呂に入るのと、裸ではいるのとでは、体の温まり方が違うのは当然。どんな新しい裸踊りが見られるか楽しみ。

 

● Report No106/ 08月15

つけ焼刀(やいば)

  つけ焼刀と言うと、メッキが剥がれるとか、一夜漬けとかのイメージでよくない意味に使われている。が、実は日本刀の命の部分で真の刀になるところで波状の模様で見えるところ。刀身全体から見ればわずかの量部分であるように、本体(担体・・・キャリア)の表面に付着していながら全体の機能を発揮させる付け物こそ、これからのハイテク材料のあり方かも。機能性薄膜(イオンプレーティング、スパッター蒸着、イオンビーム蒸着、イオン注入など)は花盛り。また、光学ビーム、スプリッター、光フィルター類、偏光フィルム、光コントロールフィルムなどは平坦な表層形成が多いが、微細な凹凸模様をつけて得られる回析格子などは、ガラス基盤に光透過性エポキシを塗布し、マスター格子から転号して、さらにAL+MgF2コーティングして得られる。高機能を得るのに、不可欠のプロセスとなったつけ焼刀的技術コンセプトも、勝手つけ焼刃的アイデアでは鈍刀になってしまうかも。

遠因

 スペインの白壁の村、土蔵の白壁を眺めていると子どもの頃を想い出した。民家の建築現場の前を通ると、いろいろな職人、材料、行程が手際よく動いていて、思わず長時間見つめていたもの。ことに漆喰(しっくい)、三和土(たたき)などの泥をこねる、塗る作業なんて子どもには最高のパフォーマンスだ。白い消石灰に苦汁(にがり)を加え、ふのりや糸くず、粘土を加え−混ぜ−捏ねて、金ゴテ(カナゴテ)で一気に押し広げていくよう。また、赤土に石灰、砂利、水を加え、苦汁を少々振りかけて練り上げた大団子を木製シャベルで叩き延ばして作る床、時間を忘れてしまうほどの大道ショーか。これに比べて、現代は既製パネルの単純張り付けで即一丁上がり!
 じーっと見つめて感心するプロセスが無くなっている。ひょっとして、原型志向が低下している遠因の一つは案外こんな所にあるかも。

 

● Report No105/ 08月08

こんなものあるの?

  セラミックでは  
 ・光と電気を通す材料は  
 ・200℃以下の炉で焼けるものは
 ・暗いところでも作用する光触媒は
  ポリマーでは
 ・超音波で反応するレジンは
 ・フレキシブルLCDパネルは
  金属では  ・電気絶縁性のあるもの
 ・ゴムのようなもの
 ・常温で粘着性あるものは

   挙げ句の果てに、[セラミック/ポリマー/金属]系の物質は?素朴な疑問が研究者を揺さぶるのが常。調べてみると、上述のいくつかのものは、かなりの所まで研究が進んでいるようでした。

3Kの代表選手

 ガラス繊維布にエポキシや不飽和ポリエステルを含浸させながら、駆体(金属・コンクリート)に張り付け、硬化させるというFRP工事は、長年、シビルエンジニアリングや装置産業分野で広く施されています。工程的には、駆体の素地調整→プライマー塗布→クロス貼り付け→レジン秤量/配合/攪拌/塗布含浸→硬化となります。いずれの工程でもミスが許されないために熟練が求められます。しかしながら、昨今は3Kなるがゆえに、技能者・作業者が育ちにくい状況があります。それは、この仕事がたっぷりの3Kに浸っているからです。
 (K)きつい  − 真夏の鉄タンク内部は地獄
 (K)きたない − 下水道ともなると臭い穢い
 (K)危険   − 素地調整用溶剤は引火性が強く、有毒。
            さらにはレジンの皮膚炎症問題。
            汚れた手でトイレを済ますと、局所炎症で腫れる羽目に(!)
  ハイテク材のおけるカーボンファイバーのライニング工事も、コンクリート駆体で増大しているだけに、脱3Kを願う開発テーマは重要です。

 

 

● Report No104/ 08月01

分子・結晶の形いろいろ

 カーボンナノチューブやナノホーン(第27号:2001年1月19日掲載, 第58号:2001年9月7日掲載)、ロタキサン(第93号:2002年5月16日掲載)、光学活性体(第62号:2001年10月5日掲載)、散逸構造(第33号:2001年3月2日掲載)、自己組織化膜(第9号:2000年8月31日掲載)など前述しましたが、最近さらに面白い形のものがいくつか研究・発表されました。
・ニオブ/セレンの針状結晶(ホイスカー)でメビウスの輪状。幅10ミクロン、厚さ0.3μ、長さ数ミリの輪。(北大)
・金のナノ棒をレーザー照射により、ナノ粒に変態(東大)
・光触媒二酸化チタンの0.3ナノ厚みの単独シート(物質材料研)
・マイクロ洞穴の壁には、ナノ洞穴がいっぱいのシリカアルミナ(千葉大)
 これらがやがていつの日か、デバイスになり、アクチュエーターになり、スーパー触媒材料になり、ウルトラキャリヤー剤になり、技術のキー材料として輝くようになるでしょう。

コンフォーマル・コーティング

 コンフォーマル(Conformal)を英和辞書で調べると、形容詞で「相似形の…」「形に沿った…」とありました。物品にペイントすれば、形−表面に沿ってのコーティングとなります。例えば、電子部品のいろいろをプリント基板上に搭載した表面デコボコ状態を一挙にコーティングし、防湿、絶縁を計ろうとするものです。平滑平面ではないから、スピンコートはできません。一般的にはスプレー、ディップ(浸漬)が主体で、その成分もアクリル、エポキシ、ウレタン、シリコーン、イミドなど要求特性に応じて選択されます。例に洩れず、環境汚染の面から無溶剤型が用いられますが、硬化機構も加熱、紫外線、常温、ホットメルト型、などがあります。
 一方、液体状のコーティング剤ではなく、反応性ガスを用いる方式(有機CVD)もあります。それは、ポリパラキシリレン(通称パリレン)です。常温で加工でき、どんな微細な隙間にまで、ガスが入り込んで硬化し、薄膜も0.5〜25μ、しかも1μ単位で薄膜コントロールができると聞きます。このパリレンもF化パリレン、F化アモルファス炭素膜、ダイヤモンドライク炭素膜の方向へ進化していくのでしょうか…。そこには、バリアー性、生体適合性、安定性、潤滑性、生体安定性、耐電圧性を同時に、高度に求める医療機器モジュール大市場があります。?

 

● Report No103/ 07月25

 ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)

 Diamond Like Carbon. Likeは「もどき(擬き)」という意味です。例えるとしたら、カニ足もどきのカマボコならぬ、ダイヤもどきの炭素材でしょうか。立方晶型のダイヤと結晶構造は少々異なっていますが、炭素材で硬質+透明となるとまさにダイヤ(膜)もどき。特性の一つに低摩擦係数(0.10)が挙げられます。低摩擦性となると、あれこれ利用できそうです。現在では、メタンガスを原料とし、高周波プラズマCVDというプロセスにて堆積薄膜を得ています。工業的には、広面積加工が可能で、セラミック、金属、ポリマーの表面への加工が200度以下でできるようになったのも魅力です。既に、カミソリの刃やデジタルビデオフィルムなどには被覆利用されており、さらに注射針、注射筒内面、オイルシール、精密摺動部品など、用途拡大が見られることでしょう。 高価なダイヤモンドの塊よりも、もどきであっても、薄っぺらであっても、その価値において決して引けをとらない「もどき」に拍手。それではさらに、他のもどき薄膜と組み合わせた複層(ハイブリッド)膜のいろいろを考えてみましょう。

イオン性液体

  室温で液体でありながら、水とは溶け合わないもの。水銀?、いや金属でもセラミックでもない有機物質にあるそうです。それは、イミダゾリューム塩化合物で、高いイオン伝導性と極性を持つ物質です。沸点も高く、物質の溶解性も強いので、新しい有機溶剤として注目されています。当然ながらイオン伝導性を損なわないで、固体化できれば用途も飛躍的に拡がりますので、その方面の研究も盛んの様子です。フィルム、成形物、粒、硬化(固化)性液体等が自由にできると、無数のニーズに対応できそうなので、それだけにいくつかの研究機関、企業で研究が鋭意進められつつあります。カーボンナノチューブの例のように新物質で特異な機能が見出されますと、形状で、加工変性プロセスで、または特性値の向上で、特定用途に対するマッチングでの特許競争が既に始まっていることでしょう。ペーパー電池、DNA電池、デジタルペーパー、マイクロTAS、マイクロパターン用材料等々、分野は限りなく広いです。既に、CNTとの組み合わせは手がつけられたかもしれませんね!

● Report No102/ 07月18

環境に優しいCO2

 地球温暖化の元凶で、憎まれ者のCO2は炭素が燃焼することで生まれた、いわば炭素のなれの果てです。ところが、液化炭酸ガスは有機溶剤のような機能を有するために、コーヒーからカフェインを抽出するために、また、パークレンの代替でドライクリーニング溶剤として利用されています。圧縮すると、臨界状態(31℃、73.8P)下では、液状でありながらガス状の粘性を有するので、天然溶剤たる水や有機溶剤の代替できることが分かってきました。デュポン社においてはフルオロオレフィンやフルオロアクリルの重合に界面活性剤として、またはICやMEMSの製造工程でクリーナーとしてスピンコートされたレジスト膜の現像剤として、など、CO2はハイテク分野でもその特異性を発揮しています。嫌われ者の特長を生かして逆に利用する発想は、省エネ技術としてお手本のようです。
 化学工程からの副生物の利用 − 安価
 有機溶剤の代替 − 不燃性
 回収・再利用度の高さ − 環境安全
 家庭で、洗濯機や食器洗い機に使えるようになると水道事業に影響を与えそうですね。家庭の節水の切り札になるかもしれません。

障子貼り

 「障子貼り」とは、格子状の桟木に紙を貼り付ける仕事です。もし、格子のサイズがミクロンサイズならばどのように紙(膜形成)を貼りましょうか。下手に糊を用いると、はみ出し糊で格子が埋まってしまうでしょう。そこで人々はいろいろと工夫をしました。
 ・駆体シートに薄膜を形成し、その上にレジストコートをする。その後、格子状にレジストを残し、駆体シートを剥離する
 ・レジスト膜状に直接、薄膜を形成し、次いで格子状にレジストを残す
 ・薄膜を可剥性層上に形成し、予め形成しておいた格子に転号(転着)する
 他、いろいろ考えられましょう。
 材料屋、プロセス技術者にとっては頭の運動的テーマになると思います。また、格子ごとに電極を付したり、薄膜が光学特性を持っていたりすると、バイオチップやオプト素子になるかもしれません。それでは、ミクロンサイズではなく、ナノレベルの格子なら、どのように膜を貼りましょうか?

 

● Report No101/ 07月11

ファイン・コート

 コート、英語でCOAT。辞書では『外被物皮膜』とのことです。メッキ、塗、層、上衣などとあります。特徴あるコート材料を基材(担体)に施す(コートする)品目を扱う企業が今、元気良い。なぜなら、昔は中小企業の担当であったが、近年はハイテクの主要構成要素ともなってきたため、大企業が乗り出すようになってきているからです。そのコート方式も塗布の他、印刷、蒸着など、その装置も複雑度が増しています。
 一方、基材の種類も多様を極め、ありとあらゆる材料に及んでいます。コートの目的も接着性、潤滑性、光学特性、導電性、防食性、濡れ性など、果ては生体適合特性まで、と果てしない。ニーズの洪水に対応せんとの状況です。
 個々の国内市場規模はさほど大きいとはいえませんが、ワールドワイドと把えると、かなりの量となります。一番の魅力は特性に応じた付加価値の確保ができることです。それだけに企業は特化を計って開発を強化しています。材料的にはナノ材料、ゾルゲル材料の出現がさらなる展開の基になるでしょう。スーパー塗り師に注目しましょう。なにか株屋の分析みたいですね。

 貴金属の代表、金。日本では中国から銅銭の輸入に砂金で、8世紀より約900年支払い続けた、とあります。また、かの藤原氏は中尊寺の経典買い付けのために、中国へ4.4トンの砂金で支払いをした、とのことです。それでも、当時の日本では金より銅の方の価値が高かったと見える。当時の日本(大和国)の通貨は輸入銅銭主体であった。銅の精錬技術がなく、自前で通貨を造ることに不自由したため、拾って集められる川の差金を持って通貨輸入したらしい。 さて、西洋ではエジプトの冶金技術にギリシャ医術が合体した形の錬金術が発達し、卑金属(Cu, Pb, Sn)から金・銀を得ようとする試みがなされました。なんと18世紀まで努力が続けられたとか。一方、中国では錬丹術と称して不老長寿薬が金からもできるのでは、と研究されたりしました。現代版「錬金術」は、金そのものの価値を高める「術」、すなわち加工度を高くして、実質的にグラム当たりの価格を高めようとする努力が中心となっています。 例えば、

 ・ナノクラス超微粉子化
 ・錯体化(例:含ポルフィリン錯体)
 ・合金としての極細配線材、微小電極
 ・薄膜材料(例:自己組織化膜形成基材)  
 まあ、政治家の錬金術には触れないで置きましょう。

 

● Report No100/ 07月04

LOC

 Lab-on-a-Chipの略、チップ上の実験室。数万のサンプル分析を高速でできる方式のため、医薬品開発には欠かせないシステム技術です。その構成も、DNAやタンパク質の極微小滴の形成とそれを受けるマイクロパターン化チップ、試料の変化を読みとる光学システム等々。そうなると、医薬品スクリーニング化学合成だけでは納まらず、医療診断センター、プロテオミクス、化学分析などその用途は広い。昔はサンプル1個につき、ガラスフラスコを使い、生成物のデータ取りも熟練技師が1日以上かかる有様でした。そのスピードの差たるや指折り算数とコンピューターの差に例えられます。電子回路を超ミニフラスコアレーに置き換える発想は当然でしょう。しかし実現するにはマイクロアレー、MEMS、マイクロマシンなどの技術の集積が合ってこそ成り立つものです。現在では、ミクロンレベルであるが、今後ナノレベルのLOCとなってくると、一体どんなインパクトが出てくる事やら。

主役交代は世のならい

 ポリマー用調味料(○○○を参照)や錯体の出世(○○○を参照)などで遷移金属イオンを内包する配位化合物を紹介しましたが、樹脂の合成分野で眺めますと、80年代にチーグラー触媒を継いでメタロセン触媒が登場。次いで90年代、デュポン社のブルックハルト触媒が究極と喧伝されましたが、98年に三井化学が100倍以上の活性度を有するフェノキシイミン(IF)を発表。このように、触媒の開発レースは熾烈を極めます。自動車用排ガス低減触媒、高効率光触媒なども主戦場。触媒の活性度は、最終兵器の特性値に直結するために、企業の命運に関わっていると言っても過言ではありません。
 ・超高強度の極薄のポリマーフィルム
 ・高レベルクリーンエンジン
 ・低コスト型浄化機能材料
 縁の下の力持ち、黒子の主役争いから目が離せません!

 

● Report No099/ 06月27

秘伝の調合

 天然成分の調合によって究極・至高のものを得ようとする、いわば「秘伝の配合」が商品の価値を決める例は枚挙にいとまがありません。蒲焼きのたれ、くさやの漬け汁、ぬかみその床、ラーメンのスープ、などなど。
 食品では主役たる食材の産地や旬の具合で微妙な調整が必要になってきます。香水なども15〜20種類の原料香油の調合に嗅覚と頭脳を総動員し、原料の産地、天候、収穫状況まで考慮に入れて(純度、成分組成比率等がロットにより変化している為)処方をあみださなければなりません。バイオリン製作のマイスター、佐々木氏によりますと「バイオリンの表面に塗るニス(Varnish)は、単に人間の汗や汚れをはじき、湿気の吸収を防ぐだけではない。それは、人間にとって聴き心地よい低音〜高温の周波数帯域だけ選んで発音させる音響効果を高めるコーティング剤で、言い替えれば、音のフィルター用コート剤である。従って、硬くなく軟らかくなく、その加減さは秘伝の調合がもたらすものである」と。
 人の感性の奥深さに改めて驚きます。

細い棒

 棒と言っても、カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)製の棒のことです。プルトルージョン法などで長尺ものが作られます。軽量で大きな拡張力を持つ棒このは、コンクリート用不錆筋や小型の橋梁材などに用途が広がっています。この細棒はちょっと面白いことに、電線ケーブルのようにドラムやリールを芯にして巻き込んで輸送することができません。なぜでしょうか。
 それはこの棒が強い直進性を持つため、常にほどけようとする力が自ずから働きます。ゆえに、芯体に巻くのではなく、円筒ケースに巻いて納める型を取る次第。まるで、新規性のスプリング。いつもエネルギーを持て余して、踊り出そうとしている物体のようです。
 とじ込め方に工夫を凝らせば、このエネルギーを除放させ、マイクロアクチュエーターの動力源に利用できるかもと・・・。また、円形トンネル内面への物品保持ツールとして利用は・・・。

 

● Report No098/ 06月20

フェライト

  フェライト−M(II)O・Fe2O3の2価金属の塩。
 構造からすれば絶縁性酸化物。これがメッキ層となるべく、プロセス研究が進んでいます。水溶液を用いての工程であるので、基材(被メッキ体)の材質は問いません。プラスチック、木材、金属、セラミックなどほとんどのものに可能、と。
 しかしながら、形状によってそのメッキ方法は工夫を要します。溶液は基本的に反応液(FeCl2+MCl2)と酸化液(NaNO2)で、これを基材にどのようにして接触、付着させるか、です。  
  平板ディスク − スピンスプレー
  微小球 − 超音波振動浴槽
  注射針 − マイクロポンプ/浴槽
  石英ガラス板 − レーザー照射  
 磁性材として幅広い機能を有するフェライト、この薄膜形成が比較的容易となりますと、機能性素子、モジュール、部材が続々と期待できます。殊にベンチャー企業には好適な技術です。

江戸小紋

 粋な小紋様の染付布は、精緻なパターンを特徴としています。それゆえ、職人の腕前はもちろんのこと、どのような材料、工程でできるのか興味があるところです。布に染料が付着しないようにする、糊付け(半導体パターニングのレジスト)の為のマスキングシートは、和紙です。この和紙は柿渋(タンニンが主成分)を含浸させ、積層し、乾燥固化させたものです。すなわち、小刀の鋭い先端で精細に切り込める材質でなければならないし、糊料に対して耐性があるステンシル版でなければならない。一方、染料の藍は葉の発酵による加水分解・還元した水溶液を得、前述の糊付布に浸漬(イオン拡散)空気酸化による濃紺の発色後、糊洗い(レジスト除去)へと。
 もの造り大好き国民、先端技術超LSIも江戸小紋と大差ない工程。人手に頼るか、機械に任せるかの違いはあっても、先達の創意工夫が今日に生きていることを改めて知ることができました。その妙に感謝!
 

 

● Report No097/ 06月13

混合物の光重合

  個々に特徴ある物質を混合して、新たな機能を得ようとする試みは、あらゆる技術分野でなされています。利用分野では光硬化性レジンが顕著です。共重合IPN、デュアル硬化、ハイブリッド硬化など多彩です。いくつか例示してみますと、
 ・自己形成光導波路(豊田中研)−光ファイバーからのレーザー出射光による高屈折率成分の選択的重合。結果的に屈折率分布導波路の形成。
 ・屈折率分布型ポリマー(慶応大学)−C-H結合を持たない非結晶性FポリマーとクロロFオリゴマー混合系の光伝送体。
 ・片面剥離層型粘着テープ(東京農工大)−PIオリゴマー/アクリルモノマー系重合物でPI濃度傾斜構造を有する。
 ・湿気で硬化する粘着材(昭和電工)−側鎖に(メタ)アクリロイル基、イソシアナート基を有するポリマーに不飽和イソシアナートを光重合させて得る。
 光エネルギーで混血児を産む。それも光り輝くような特異能力を有する子ども。その能力をうまく活かして育てていきましょう。

電池

 電池が無ければモバイルも単なるガラクタ。モバイル機器の発展に伴って、電池の小型化、高性能化が極めて重要となって来ており各社とも知恵を絞っての開発レース。いくつかご紹介。
・ 独国フラウンホッファ−研究所は燃料電池と太陽電池の統合を目指す。更に、シリコンウェハー上にメタノール→水素転換のμリアクターを開発し、現リチウムイオン電池の半分の重量で4倍の寿命を達成。又、日本のカシオへ技術供与し、同社はパソコン蓋に組込み20Hr稼動目指す。
・ 米国マンハッタンサイエンス社は20ccアルコール・アンプルで6ヶ月発電作動するマイクロ燃料電池開発中。
・ 米国スタンフォード研究所は人工筋肉とも言える電歪(デンワイ)ポリマーを靴の内に組み込み、歩行による発電システムを米軍向けに開発中。
・ 産総研/NECは活性炭に変えて、カーボンナノチューブに白金触媒を担持させた電極を開発。ノート型PCならば数日間連続使用出来るFCが可能と発表。
 20年程前に超軽量・大容量のペーパー電池を夢想して調査に入ったことがあったが、燃料電池方式が出現するなんて兔毛程も考えつかなかった。

● Report No096/ 06月06

光配線

 配線といえば電気配線。ところが光時代を迎えて当然、光配線となってきました。光信号伝送に、小さいものではフォトニクス結晶の光回路から、中は導波路、大きいものになると長距離光ファイバー網に至るまで多様な光回路技術が利用されています。特に大容量データを転送可能な、部品間を直結する光ファイバー配線フレキシブル板の利用が進んでいます。
 導波路では0.1m以上で減衰が大きく、また交差することもできず、光ファイバーでは結線作業が難しい。そこで、耐熱フィルムの上に交差させた光ファイバー網を設け、カバーフィルムで覆ってシート化し、端末にコネクターを融着させた光ファイバー配線板。これらとて固体の光ファイバー布線工程から見れば、時間面コスト面の問題があります。0.1〜0.5m伝達可能な印刷(スクリーン印刷のみならずインクジェットプリント等も含めて)プロセスで得られる光回路板が得られるように、いづれはなるでしょう。その回路板もそれ自体が、ある種の制御機構を付加されて発光・表示能力を示すようになると、表示デバイスそのものになることでしょう。虫の良い話−それが研究開発。舞台裏で表芸を発揮する姿−妙。

ゾル−ゲル薄膜

 固体薄膜は電気、光学、機械的機能の先端的特性が期待されることから、各方面で鋭意研究が進められています。導電膜・絶縁膜として集積回路やその実装分野で、化合物集積膜、光導波、光学、発光、光電変換、記録、反射膜としての光機能その他防汚、磨耗潤滑など、枚挙に暇がないほどです。その形成には気相法が多く、真空蒸着、スパッター、イオンプレーティング、CVDなどを利用します。 それに対し、液相法はメッキ、塗布、ゾルゲル法などがあります。最近は金属アルコキシドを出発原料とするゾルゲルが注目されています。その理由は、高価な装置が不必要、低温プロセスが可能、液状ゆえに部分膜形成が容易、低コストのプロセス費からでしょう。最近とみに研究報告の多い光触媒もゾルゲル技法です。多分、近々、高度変性ゾルゲル組成物をインクとするインクジェット印刷による薄膜トランジスター・アレーが10坪工場で産出されるようになるかもしれません。それは夢のデジタルペーパー。それもペーパー状の燃料電池をラミネートされているとなると、思うだに楽しい!